児童養護施設から社会へ 自律を育む支援と支え合う地域づくり < 子どもたちの未来のために、私たちができること >
2025.04.10 掲載
広島県内には13か所の児童養護施設があり、令和6年11月広島県児童養護施設協議会調べによると約600人の子どもたちが生活しています。
今回は、児童養護施設が果たす役割とその支援の在り方に焦点を当て、子どもたち一人ひとりが自律を育み、社会的な自立へとつながる過程を支える「広島新生学園」(東広島市)の取り組みを紹介します。また、こうした支援が社会全体の課題解決にどのように寄与し、どのように地域支え合いの仕組みをつくることができるのかについて考えます。

令和6年10月22日で創立79周年を迎えた
児童養護施設 広島新生学園
1.児童養護施設の役割
児童養護施設は、家庭での養育が困難な子どもたちを受け入れ、安心して生活できる環境を提供する施設です。かつては経済的な理由で生活が厳しい家庭の子どもたちが多く入所していましたが、現在では何らかの虐待を受けた子どもたちが大半を占めています。虐待には、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクト(育児放棄)などがあり、施設ではこうした子どもたちに生活の安定を図るとともに、必要な支援を行なっています。
近年、地域社会のつながりの希薄化や、虐待・貧困といった社会的課題の影響を受け、児童養護施設の役割はますます重要になっています。単に子どもたちの生活を支えるだけでなく、心のケアや学びの機会を提供し、地域社会の一員として生きる力を育むことが求められています。
2.自律を育む取り組み 広島新生学園の実践
自律とは、他者の支配や制約を受けることなく、自ら考え、判断し、行動する力を持ち、自己を律することを言います。児童養護施設で暮らす子どもたちにとっても、社会での自立に向けて、まず自律を身につけることが重要な基盤となります。
子どもの自律を育む支援について、上栗哲男園長に伺いました。

写真:子供の自律、大人の責任を語る上栗園長
上栗園長は、「施設で暮らす子どもたちは、集団生活を通じて協調性や礼節、マナーを身につけることができます。ときには厳しく感じることもあるかもしれませんが、それを乗り越えることで、自らを律し、社会の中で主体的に生きる力が培われます。この力は、子どもたちにとって大切な“宝”となりますが、その価値に気づくのは、10年後、20年後に社会へ出た時かもしれません」と語ります。
また、同施設では設立当初から「スポーツセラピー」を取り入れています。これについて、上栗園長は次のように述べています。
「スポーツセラピーは、ルールのある環境の中で協調性を養うのに非常に有効です。チームスポーツでは、失敗をみんなでカバーしたり、互いに励まし合ったりすることが求められます。その過程で、自分の役割を理解し、責任を持って行動する力を身につけることができます。これはまさに、自律の力を育むプロセスでもあります。自ら考え、仲間と協力しながら行動する経験は、社会に出たときに他者と良好な関係を築くための基盤となります」
広島新生学園では、子どもたちが社会の中で適応し、他者と調和しながら、自ら考え、判断し、行動できる「自律した個」として成長できるような支援を大切にされています。

写真:野球大会で挨拶をする上栗園長
3.子どもの自律を支える大人の関わりかた
児童養護施設では、子どもたちが自律を身につけることを通じて、社会的な自立へとつなげていくことが求められます。そのためには、子どもたちが自ら考え、判断し、行動できる力が育まれるよう、大人が適切に関わることが重要です。この支援の在り方は、将来、子どもたちが向き合っていく社会的課題を解決する力をつけるうえで貴重なかかわりとなります。
上栗園長は、大人の関わりの重要性について次のように語ります。
「親や大人が子どもに自己を律することを教えることが大切です。間違ったことをしたら厳しく注意し、褒めるべきことは、しっかりと認めてあげる。こうした関わりが、子どもの成長にとって非常に重要です。子どもは、大人の本気をしっかりと感じ取っています」
4.支え合いが未来をつくる 私たちにできること
児童養護施設に入所する子どもや、地域で困りごとを抱える子どもたちの課題は、特定の支援者だけではなく、社会全体で考えるべきです。それゆえに、多様な活動主体がつながり、地域社会の機能として解決していくことが重要であり、特に被虐待児への支援は、こうした取り組みが効果的です。
子どもが自律でき、地域社会の一員として生きていくためには、親や大人が適切に関わることが大切です。しかし、それだけでは十分ではありません。併せて、地域社会、教育機関、企業が連携し、子どもたちが社会とのつながりを持ち、自ら考え、判断し、行動する力を育む機会をつくることが必要です。
私たち一人ひとりが地域の生活課題に無関心でいることなく、ふだんから向き合い、お互いに支え合うことが、よりよい地域づくりにつながるのではないでしょうか。私たちが地域社会との関わりを見せることが、引いては、子どもたちの未来を切り開く力になります。今できることから始めてみませんか。
本会では、児童養護施設をはじめとする県内の社会福祉施設の運営支援を通じて、喫緊の社会的課題に向き合いながら、一人ひとりが困った時に支えあえる地域づくりをすすめていきます。
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