令和6年度広島県社会福祉大会を開催しました!(後編)
2025.01.10 掲載
令和6年11月19日(火曜日)に、アステールプラザ中ホール(広島市)において、「令和6年度広島県社会福祉大会」を開催し、表彰式典と記念講演を行いました。
前回(2024年12月掲載)は、この大会の様子と県社協会長表彰受賞団体について紹介しました。
今回は、記念講演の詳細について紹介します。
記念講演「ひきこもりや生きづらさを抱える人も支え支えられる第三の居場所づくり~食から始まる地域の輪~」
記念講演では、NPO法人芹川の河童(せりかわのかっぱ)(以下、芹川の河童)、一般社団法人ゆめと月詩舎(つきのうたしゃ)(以下、月詩舎)代表の川﨑 敦子(かわさき あつこ)さんに、「ひきこもりや生きづらさを抱える人も支え支えられる第三の居場所づくり~食から始まる地域の輪~」と題して、ご講演いただきました。
プロフィール
滋賀県長浜市出身、現在彦根市在住。保育士の資格を持ち、福祉施設指導員として、障害者施設での経験を経て、学童保育の指導員となり、放課後児童クラブを運営するNPO法人の代表となる。平成27年に、放課後児童クラブの仲間と関係者によってNPO法人芹川の河童を設立(NPO法人認証は、平成29年5月)。平成31年4月に、一般社団法人ゆめと月詩舎を設立し、現職。その他、滋賀県立大学の非常勤講師や、発達相談支援管理責任者、障害児者計画相談支援員、彦根を映画で盛り上げる会事務局長、彦根市の音楽家を支援する会代表などを務められている。
芹川の河童、月詩舎の取り組み
芹川の河童では、「一人ひとりの存在を認め、寄り添うことで、地域を愛する人を育み、自らも成長し、幸せな地域を創る」ことを経営理念として、制度の狭間にある「ひきこもり状態にある若者」「子ども」「ヤングケアラー」などの支援を中心に取り組まれています。
具体的には、若者の居場所「誰にも会いたくないカフェ(逓信サロン)」、地域の居場所(コミュニティカフェ)「地域循環型未来食堂みんなの食堂(以下、みんなの食堂)」、子どもの居場所「子ども第三の居場所」の3つの居場所事業や、ヤングケアラー支援事業、障害児及び障害者の計画相談などを実施されています。これらの事業は、大学の先生に顧問となってもらい、共同研究などをしながら進められています。また、居場所事業の施設がある花しょうぶ通り商店街、地元企業、行政や社協など地域の関係者と連携しています。
月詩舎では、放課後児童クラブの運営や障害児及び障害者生活支援事業などを実施されています。
どちらの法人も、“地域の安全基地でありたい”という思いを持ち、常に当事者の声を真ん中にして考えながら取り組まれています。
ひきこもりや生きづらさを感じる若者の居場所づくり
川﨑さんが代表を務める放課後児童クラブに、ひきこもり状態にある若者の相談があり、その若者をスタッフとして受け入れたことがきっかけで、彦根市の委託事業として、平成29年から、ひきこもりや生きづらさを感じる若者の居場所「誰にも会いたくないカフェ(逓信サロン)」の運営が始まりました。このサロンは、花しょうぶ通り商店街の古い郵便局跡地を会場に、彦根市内に居住する15歳から39歳の若者を対象として、毎週火曜日と木曜日の12時から16時に開催されています。また、大学の先生からの助言もあり、いきなり働く練習をする場所ではなく、何をしてもいい場所、何もしなくてもいい場所をコンセプトにされています。
このサロンの名前は、芹川の河童の理事でもある若いクリエイターが、広報チラシを作成する際に、「若者は、福祉や支援のチラシを見て、行きたいと思わないのではないか。おしゃれで手に取りたくなるチラシをコンセプトに、ひと目見てどんな場所かが分かり、“これ何?”と尖りのあるネーミングにしたい」と「誰にも会いたくないカフェ」と名付けてチラシを作ってきたことが由来となっています。チラシを配ると、彦根市内の大学の相談室や高校からも問い合わせが入るようになりました。
川﨑さんは、次のように話されます。
ひきこもり状態にある若者は、さまざまな理由で心が折れて、エネルギーが低下している状態だと言えます。また、若者の中には、学校や大学で生きづらさを感じ、それ以外では、人と関われない人もたくさんいます。こうした若者たちの“気持ちにひたすら寄り添い、やりたいことを応援する居場所でありたい”と考え、逓信サロンを運営しています。 逓信サロンでは、居場所事業だけでなく、希望する利用者には、芹川の河童や月詩舎が運営している放課後児童クラブや子ども第三の居場所などでの実習や、彦根市のイベントや映画撮影のアルバイトなどの紹介を行い、就職につなげるためのエネルギーを高める支援も行なっています。実際に、この経験から働く自信をつけ、就職につながった若者もいます。 さらに、このサロンとは別に、働き出した若者や逓信サロンを卒業した若者のための居場所(ナイトケアサロン「誰にも会いたくない夜」)も開催しています。 |
「みんなの食堂」開設のきっかけ
ある時、ひきこもり状態の子どもがいるお母さんが、逓信サロンの看板を見ながら、「うちの子も参加してくれたらいいのになぁ」と言っていました。それを聞いていた川﨑さんが「サロンに来たらいいよ」と勧めたところ、「うちの子は、“行政がお金を出している所に行きたくない”って言うんです」と言われました。
この言葉から、川﨑さんは、逓信サロンのチラシを作った若いクリエイターが、「若者は、いかにも支援される所には行きたくないのではないか」と言っていたことや、逓信サロンで関わる若者の様子を思い出し、「ひきこもりや生きづらさを感じる若者は支援されたいんじゃなくて、社会の役に立ちたいと思っている。支援される場所をつくるのではなく、その若者たちが役に立てる場所をつくろう」と考え、令和2年から「みんなの食堂」の運営を始めました。
「みんなの食堂」の開設までの流れと展開
「みんなの食堂」は、行政の補助金などを受けずに運営したいという考えから、花しょうぶ通りの商店街にある空き家を活用し、自立した運営ができるよう「食堂」という形態にしました。食堂であれば、福祉の場所に見えず、ひきこもりや生きづらさを感じる若者が家から出るきっかけにできるのではないかという考えもありました。
食堂は、料理が得意な人を日替わり店長として、場所の貸し出し代3,000円をもらい運営しました。また、貸し出し代は、居場所の運営に充てることにしました。現在、料理学校の校長先生やカフェ開業を夢見るママ友、料理が趣味の工場の班長など14組の日替わり店長がいます。また、食材については、地元のスーパーや農家から出る廃棄野菜や余剰品などのフードロスの食材を活用することにしました。
このフードロス食材を使うことで、食べに来るだけで人の役に立つことができ、食べに来る人が、食堂や居場所の運営に協力してくれるようになれば、循環が生まれることから、「みんなの食堂」と商店街の人が名付けました。
「みんなの食堂」では、お金がない人にも食べてもらえるようにと、誰かがおごってあげる券「恩送り券」を発行しています。恩送り券は、1枚1,000円で、買ったチケットを店の壁に貼り付けておくと、別の誰かが使うことができる仕組みです。この券は、ひきこもりや社会的擁護を受ける若者などが使用しており、券の裏側には、購入した人の名前が書いてあり、使われると、その人にメールが届くようになっています。この券を通して、券を購入した人、使用した人、若者などみんなが誰かの役に立つことができており、よい循環が生まれています。
川﨑さんは、次のように話されます。
困っていてもいきなり行政や専門機関に相談する人は少ないため、「みんなの食堂」は、地域や個人の困りごとの最初の入口としての役割を果たしていると思います。「みんなの食堂」では、必ず専門職につなぐことができる場所、また、専門機関から社会との関わりを求める人のための入口にもなりたいと思って運営しています。 さらに、地域の課題について話合う「もっとみんなの食堂」という会議も開催しています。この会議には、地元の商工会議所や企業の職員、地域の人、行政や社協職員、大学生や先生などが参加しています。地域の抱える課題を関わった人たちで楽しく話しあえ、解決策まで出しあえる場とすることを目的にしています。現在は、この会議から、「みんなの食堂」を活用して、健康マージャンをする「みんなの雀荘」や看護師が常駐する「みんなの保健室」などさまざまな取り組みが広がっています。 |
講演の最後には、「食でつながる『みんなの食堂』の取り組みを通して、福祉を中心にした地域共生社会の街づくりを今後も商店街の人と一緒に考えていきたい。また、誰もが幸せになる地域をめざして、今後もいろいろなことに取り組んでいきたい」と今後の展望についてもお話いただきました。
記念講演を通して
今回の記念講演を通して、当事者も支え支えられる居場所にするためには、ひきこもりや生きづらさを感じる若者の、“支援されたいのではなく、役に立ちたい”という当事者の声を真ん中にして、何を求めているかを最大限に見極めて、場をつくっていくことが大切だと学びました。また、誰もが役に立てる循環の仕組みを地域の関係者と話し合いながらつくっていくこと、地域の関係者とともに、地域の資源などをうまく活用しながら自分たちができることを考えていくことが大切であることを学びました。
本会は、福祉関係者とともに、引き続き、誰もが生きがいと役割を持ち、相互に支え合うことができる地域共生社会づくりに取り組んでいきます。
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