障がい者の新たな就労の場づくりと地域貢献をめざした「フィットネス イゴカス」 <「ゼノ」少年牧場の取り組み>後編
2024.05.10 掲載
福山市沼隈町にある社会福祉法人「ゼノ」少年牧場が運営する、FITNESS IGOCAS(フィットネス イゴカス)を通した、知的障がいのある人の新たな就労の場づくりと地域貢献をめざした取り組みについて、フィットネス イゴカスの立ちあげを中心的に取り組まれた、同法人多機能型事業所JOBプラスはんどの渡辺博愛(わたなべ ひろちか)管理者とJOBプラスはんどの副主任であり、フィットネス イゴカスのリーダーの開原浩視(かいはら ひろし)副主任にお話を伺いました。(訪問取材日:令和6年2月27日)
前回(2024年4月10日掲載)は、フィットネス イゴカス立ちあげの目的の1つである「障がいのある人の新たな就労の場づくり」についてお伝えしました。今号も引き続き、立ちあげの目的とその具体的な取り組みについて紹介します。
イゴカス立ちあげの4つの目的とその取り組み
目的2:知的障がいのある人たちと「ゼノ」少年牧場に対する地域の人の理解を深めたい
「ゼノ」少年牧場は、沼隈町を中心に60年以上さまざまな障害福祉施設・事業所を運営していますが、昔に比べて地域とのつながりが薄くなってきたと感じる時期がありました。
イゴカス立ちあげの目的の1つとして、知的に障がいがある人のこと、「ゼノ」少年牧場がどんな事業に取り組んでいるのかなど、改めてもっと理解していただきたいと考えています。
イゴカスは、基本的に一般のジムとやっていることは変わらないですが、知的障がいのある人たちが働いているという点が大きく違うところです。知的障がいの利用者さんのそばで職員がサポートしながら、一つひとつ仕事をこなしていく姿を地域の人に見ていただくことで、障がいのある人たちへの理解が深まればと考えています。イゴカスの開設以来、利用者一人ひとりの働く姿を通して、今では会員さんと自然と会話ができるようになっています。イゴカスで働く障がいのある利用者さんが休日に町内を歩いているときも、「今日休み?」とよく声をかけてもらうようになっています。障がいの有無に関係なく、人と人とのふれあいの場、地域の人の温もりをひしひしと感じています。
目的3:障がいの利用者のリハビリや運動ができる場所をつくりたい
JOBプラスはんどの利用者さんの中には高齢の人やダイエットが必要な人がいますが、普段の事業所の中ではなかなか運動ができない環境でした。そこで、イゴカスの定休日である毎週木曜日には、ジムのスタッフと、JOBプラスはんどの掃除部門の利用者さんが一緒にイゴカスの大掃除をしていますが、この日は、JOBプラスはんどの利用者さんの運動・リハビリの場として活用しています。
掃除部門ではない利用者さんもここに来て、掃除部門の人も掃除が終わったらトレーニングマシンやバランスボール、ストレッチポールを使ったり、エアロビクスなどのエクササイズをして運動をしています。高齢の利用者は関節も筋肉も硬くなりがちなので、レッドコードを使ったエクササイズをして、少しでも体の拘縮を防止したりしています。また、運動するだけでなく、遊びの要素も取り入れ、ボーリングや卓球などでも楽しんでいます。
目的4:障がいのある人の働く場を通して、地域に貢献できるような事業をしたい
イゴカス開設の約2年前に、法人の理事長と渡辺管理者で、障がいのある人たちの働く場を通して何か地域に貢献できる事業ができないかと考えたとき、沼隈町にはフィットネスジムがなく、フィットネス事業を通して、地域の人の心身の健康づくりの場を提供していこうと、「地域密着型フィットネス」をコンセプトに、事業の計画をスタートさせました。
地域の人にとって利用しやすくするため、料金も月4,000~5,000円の価格設定や、休会期間の制限はなく、休会中も手数料なしと良心的な運営に努めています。
沼隈町は高齢の人が多いのですが、最初の頃は、圧倒的に59歳以下の利用が多かったです。今では60歳以上のシニアの利用も増え、半数を占めるようになりました。例えば、70代の高齢の人で最初は歩くのも不安な様子でしたが、今は、立ったまま靴を履き替えたり、小走りしたり、見た目が若返ったりなど、体を動かすことで、「日々の生活が楽になった」「肩こりがなくなった」という嬉しい声を聞きます。コロナで休業している間も、たくさんの会員の方々から「絶対に閉店せんでよ」という声や、「近くにあってよかった」「(エクササイズなど)こうしてほしい」といった要望などもあり、地域の人と一緒にジムをつくっている感覚があります。
最近では体を動かすだけでなく、シニア同士で和気あいあいと楽しく話している姿をよく見かけたり、「健康に気をつけて長生きしよう」「今日はあの人が来ていないね」など、お互いを気にかけたりする姿など、地域のふれあいサロン的な雰囲気が生まれています。障がいのある利用者さんや職員に対して、優しく声をかけてくれたり、困りごとまでとはいかないですが、健康以外の相談なども受けることもあります。
また、イゴカスができてから地域の人が野菜や果物、お菓子などの差し入れや、中には、趣味のゴルフや釣りのお誘いがあったり、駐車場に地域の祭りのだんじりが入ってきて、商売繁盛を願ってもらったりなど、地域との関わり・つながりが増えてきていると感じています。このイゴカスという場を通して、「ゼノ」少年牧場に対するご意見や、困りごとも含めて地域の要望などが「イゴカス(ゼノ)にお願いしてもいいかな」と思ってもらえる存在にしていきたいと考えています。
イゴカスがめざす今後の取り組み
会員のみなさんから会費をいただいてイゴカスを運営していますので、一番はやはり地域の人の「健康づくりの場」を提供すること、スタッフの力量や専門性を高め、しっかりと地域に還元していきたいと考えています。また、障がいのある人たちへの理解が深まり、地域共生社会のきっかけの場になっていければと思います。
そして、何よりも障がいのある人の就労の場、彼らの工賃を今よりももっとあげていくことです。
前編でもふれたように、新規入会者の獲得と休会者に戻っていただく工夫が課題です。特にジムに通っていた人が1回長期で休むとなかなか戻りにくい現状はどのジムでもあり、ご本人の「運動しよう」という動機づくりが必要になります。地域の人の心身の健康づくりの場を提供するため、また、知的障がいの利用者の工賃をあげていくためにも、休会中の人に対して、「再開1か月無料キャンペーン」の実施とエクササイズプログラムをこれから数か月に渡って連続で増やし、「また始めてみようかな」「こんなにプログラムが増えて楽しいし、続けたいね」と思ってもらえるような取り組みを展開していきたいと考えています。
立ちあげ当初のこれら4つの目的は、これからも永遠に変えることなく、また、現状に甘んじることなく、ずっと継続して取り組んでいきたいと考えています。
- フィットネス イゴカスInstagramは「igocas101」を検索
- 社会福祉法人「ゼノ」少年牧場のホームページへ
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