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障がい者の新たな就労の場づくりと地域貢献をめざした「フィットネス イゴカス」 <「ゼノ」少年牧場の取り組み>前編

2024.04.10 掲載

 福山市沼隈町にある社会福祉法人「ゼノ」少年牧場が運営する、FITNESS IGOCAS(フィットネス イゴカス)を通した、知的障がいのある人の新たな就労の場づくりと地域貢献をめざした取り組みについて、フィットネス イゴカスの立ちあげを中心的に取り組まれた、同法人多機能型事業所JOBプラスはんどの渡辺博愛(わたなべ ひろちか)管理者とJOBプラスはんどの副主任であり、フィットネス イゴカスの開原浩視(かいはら ひろし)リーダーにお話を伺いました。(訪問取材日:2024年2月27日)
 フィットネス イゴカス立ちあげの目的とその具体的な取り組みについて、2回(2024年4月・5月)に分けて紹介します。今号では、「障がいのある人の新たな就労の場づくり」についてお伝えします。

フィットネス イゴカスの概要

イゴカスの外観

 「ゼノ」少年牧場は、2019年10月に、2年間の準備期間を経て、福山市沼隈町にフィットネス イゴカス(以下、イゴカス)をオープンしました。全国的にも珍しい、社会福祉法人が運営するフィットネスジムです。店名の「イゴカス」は、中国地方の方言で「体をいごかす(動かす)」から命名しています。
 イゴカスの会員数は、オープンして3か月くらいで250人まで増え、現在の在籍者数は約400人となっています。中学生から80代までの幅広い年齢層の地域の人たちが利用されていますが、コロナの影響を受け、現在は180人程度の休会者がおられます。
 イゴカスでは、職員5人(50代1人、30代1人、20代3人)と、多機能型事業所JOBプラスはんど(就労継続支援B型)の知的障がいのある利用者の方7人がスタッフとして働いています。職員は、障がいのある人たちの「働く」を支える中で、彼らの日々の充実感や達成感をつくり、共に歩みながら、一般企業が運営するジムと同じようにインストラクターとして、会員の運動指導やスタジオエクササイズを行っています。
 障がいの有無に関わらず、フィットネスジムという場を通して交流し、理解を深め合う、地域で共に生きる社会の実現をめざした1つの場所でありたいと願いながら、温かさとふれあいをモットーに運営しています。また、法人の福利厚生の一環として、法人職員は安価な料金で利用可能にしています。

フィットネスジム立ちあげまでの道のり

 イゴカスの建物は、元々、地域の人の所有で長い間空き店舗でしたが、大家さんに交渉して賃貸契約を結び、必要なリノベーションを行い、一般のジムと同じように、さまざまなトレーニングマシンやグッズを整備しました。一番心配したところは、ジムに欠かせないスタジオエクササイズをどう展開していくかのマンパワーの確保でした。また、エクササイズだけでなく、一緒に働く知的障がいのある利用者さんのサポートの両方を担う法人職員を確保したいという思いもありました。
 そんな中、ある人材紹介系の企業が開催する就職フェアに参加した際に、健康運動実践指導者の資格(エアロビクスができる資格)を取得予定で就職活動中だった大学4回生の男性2人と出会い、最初の人材の確保につながりました。2人はオープニングスタッフとしてジムの立ちあげ時から現在まで大活躍中です。
 それから、渡辺管理者や開原リーダーもレッドコートという高齢者向けのエクササイズのインストラクター研修を受けに行ったり、マシンの入札業者や職員の家族など、人との縁によって外部のインストラクターやエクササイズの種類の確保を進めていきました。

トレーニングマシンを整備

 

スケジュール掲示等の様子

イゴカス立ちあげの4つの目的とその取り組み

目的1.障がいのある人たちの働く場所を新たに作りたい、彼らの工賃を少しでもあげたい

 JOBプラスはんどの利用者数は現在37人。イゴカスの運営をはじめ、コロッケ・メンチカツの製造・販売や小規模農作業、クッションやストラップ等の生活雑貨の製造販売などさまざまな作業種の経験を経て、就労継続支援A型、さらには一般就労へのステップアップをめざして支援を行っています。
 「働く」の中では社会性(対人コミュニケーション力)も大きな要素とされますが、顔なじみの障がいのある仲間や職員との関わりが中心となる普段の事業所の中は狭いコミュニティであり、短期間の実習等ではなかなか身につけることができにくい環境にあります。イゴカスで就労している7人の利用者さんは、それぞれの障がいの特性に応じて、館内の掃除やエクササイズの準備・参加人数把握・片づけ、受付の手伝いなどを行ったり、チャレンジの取り組みとして、館内放送や司会も含めて10分程度の簡単なエクササイズ(ラジオ体操)のインストラクターを務めたりする人もいます。館内放送やエクササイズで話す言葉も自分で紙に書いて事前に練習するなど、やりがいを持って取り組んでいます。利用者さんからは「ここで働けてよかった」「楽しい」という声もあり、イゴカスという新たな就労の場ができたことで、地域の人たちと毎日接していく中で社会性を拡げる練習にもなり、一般就労に向けたステップの1つの場所になっています。
 また、イゴカスが立ちあがる前のJOBプラスはんどの利用者の1か月の工賃は、全国平均に届いていませんでしたが、イゴカスを運営し始めて、今は1.5倍に増えています。休会者の再開や新規会員の獲得をしっかり行い、コロナ前のように夜はランニングマシンが順番待ちだった状況を再度めざしていき、結果、彼らの工賃を少しでもあげることができればと考えています。

ステップアップした知的障がいのあるOさんの事例

 知的障がいのあるOさん(40代男性)は、20代の頃に一般就労していましたが、対人コミュニケーションが苦手でストレスを溜め込んでしまい、仕事を辞めてしまいました。
 職場の中でうまくいかなかったことは彼の心の中に深く残ってしまい、ストレス対処が難しくなって再び一般就労に就くことは難しい状況が続きました。そこで、「ゼノ」少年牧場の入所施設に入り、まずはゼノでの日中活動等を通して、毎日同じ顔なじみの障がいのある仲間や職員と日々接することで、人との関わり方や安心感を徐々に取り戻していけるよう支援を行いました。
 その後、入所施設を経て、住まいをグループホーム、日中活動をJOBプラスはんどに移し、さまざまな作業種の就労を続けているうちに、ようやく「働いて給料をもっと稼ぎたい」という気持ちが芽生えてきました。そのタイミングで作業種をイゴカスに切り替え、まずは、会員さんとの挨拶や会話を日々繰り返していくことで、新たな人とのコミュニケーションに慣れていくこと、同時にストレスへの対処や解消の支援も行っていきました。
 そして、イゴカスでの就労を2年半程度経験後、次へのステップとして、就労継続支援A型事業所へ行くことを決めました。イゴカス卒業前は会員の方から「頑張れよ」と激励の手紙をもらい、うれしかったようです。JOBプラスはんどを卒業して2年ほど経ちますが、たまに、JOBプラスはんどやイゴカスに寄ってコーヒーを差し入れてくれたり、近況を話してくれたりしながら、今もA型事業所で順調に頑張っています。

イゴカスで働くスタッフの声

写真前列左から大森さん、岡本さん、支援員の山田さん、後列左から支援員の藤原さん、リーダーの開原さん

写真左から支援員の三谷さん、狭間さん、支援員の矢野さん

JOBプラスはんどの利用者 大森 伊都子さん(1枚目の写真左前)

 週5~6日勤務。来館者への挨拶や受付、館内の案内、掃除、スタジオの準備、館内放送、電話の取次ぎなどさまざまな仕事を担当し、イゴカスの即戦力。
 館内放送を最初にしたときはとても緊張して失敗してしまいました。最初の頃は、職員に頼んで、説明用の紙を用意して行っていましたが、徐々に、紙を見なくても放送できるようになりました。

JOBプラスはんどの利用者 岡本 仁さん(1枚目の写真中央)

 週4日勤務。月1回、水曜日にラジオ体操を担当。
 最初に参加されている会員の人たちの前で挨拶を行い、職員に「音楽をお願いします」と言って、ラジオ体操を行い、終わったら、「ありがとうございました」と会員から拍手をしてもらえるので嬉しいし、やりがいがあります。今は館内放送のデビューに向けて練習中です。練習でよくなかった部分は自分で気づき、振り返りもして日々頑張っています。

JOBプラスはんどの利用者 狭間 美智子さん(2枚目の写真中央)

 週4~5日勤務。
 トレーニングマシンの消毒や洗濯干し、モップ掛けやトイレ掃除を行っています。笑い話もしながら楽しく仕事をしています。地域の人たちとも顔見知りです。ここはとても楽しいので、これからも頑張ります。

職員(生活支援員兼インストラクター) 藤原 大輔さん(1枚目の写真左後)

 入職4年目。前職は太鼓奏者。
 元々、筋トレに興味があって、イゴカスの会員として通っていたときに、「イゴカスで仕事がしたい」と相談したことがきっかけで、障がいのある人が就労していることは知らずにアルバイトから始めました。前職の太鼓チームの師範代にも障がいのある息子さんがおられ、障がいに対して偏見などもなく、すぐに打ち解けることができました。スタジオエクササイズなど会員の人たちからも、「大輔くんのスタジオなら入る」「(職員になって)ここでしっかりやりぃや」など、期待を込めた言葉ももらったので嬉しかったです。やりたいことも出てきて、「ずっとここで働きたい」と思い、正規職員になりました。

職員(生活支援員兼インストラクター) 山田 隆成さん(1枚目の写真右)

 入職5年目。JOBプラスはんどの職員が就職フェアで出会って採用した職員。
 イゴカスに就職を決めた理由は、店舗のオープン時から携わる機会はなかなかないと思ったこと、また、「地域貢献を軸にしたジムの運営をやっていきたい」という話も印象に残りました。入職して最初は一般のジムのトレーナーやインストラクターの業務に加え、利用者の支援がプラスで入ってくるので、福祉の仕事とフィットネスの仕事の両立にすごく苦労しました。今はだいぶ慣れてきましたが、100%うまくいったと思ったことはなく、日々、試行錯誤しながらです。イゴカスに入って楽しいときもあるし、いろんな人たちと関われるという意味では、さまざまな経験ができているなと思います。今このイゴカスに来ている障がいのある利用者さんや、会員の人たちの目の前の目標を叶えられるように、これからも日々サポートしていきたいです。

写真左から支援員の山田さん、開原リーダー、JOBプラスはんどの渡辺管理者、支援員の藤原さん

 

 続きは、次回(2024年5月10日発信)にご紹介します。

 

 

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