権利擁護を必要としている人を支えるために<東広島市社会福祉協議会における法人後見事業の取り組み>
2024.01.10 掲載
認知症や知的障害、精神障害などにより、判断能力が不十分なため日常生活に支障のある人に選任された成年後見人等(親族、弁護士、法人等)が必要な支援を行う成年後見制度。県内では、5,728人(令和5年10月1日現在 内訳 任意後見59人、法定後見5,669人 広島家庭裁判所調べ)がこの制度を利用しており、中でも認知症高齢者や身寄りがなく、複合的な課題を抱えた人の増加が見込まれるため、この制度を活用して利用者の意思を尊重したチームによる権利擁護支援が求められています。
今回は、東広島市社会福祉協議会(以下「東広島市社協」)の法人後見事業の概要や利用者への支援の様子、実践者の声をお伝えします。
【文言解説】
成年後見制度とは…認知症、知的障害、精神障害などにより物事を判断する能力が十分でない人について、本人の権利を守るため法規定により選任された援助者(「成年後見人」等)が、本人を支援する制度。
法人後見とは…社会福祉法人や社団法人、NPO などの法人が成年後見人、保佐人もしくは補助人になり、親族等が個人で成年後見人等に就任した場合と同様に、判断能力が不十分な人の保護・支援を行う。
東広島市社協における法人後見事業
東広島市社協は、平成24年4月から法人後見事業を開始しました。福祉サービス利用援助事業では、判断能力がさらに低下したため支援が難しく、福祉サービスの契約や施設入退所の契約手続きなど、成年後見制度の利用を必要とする人が増えたことが事業開始のきっかけです。
支援の内容は、支援が必要な人(成年被後見人等)に対して、東広島市社協職員と法人後見支援員が成年後見人等として連携し、介護、医療、福祉サービスなどの手続きや預貯金・財産の管理などの後見事務を行っています。事業開始時は1件の支援でしたが、令和5年10月末現在で53件に増加し、日々支援をすすめています。
【文言解説】
法人後見支援員とは…法人後見業務において社協職員と共に本人(成年被後見人等)を支援する人。
本人に寄り添う支援
関係づくりから本人思いを実現(支援初期/約10年前)
知的障害のある笹田よし子(仮名)さんは、自身での金銭管理等を行うことが難しく、同居する母親が行っていました。母親が認知症になったため、成年後見制度の利用を申請し、笹田さんの成年後見人(以下、後見人)を東広島市社協が法人受任。社協職員や法人後見支援員が後見人として週1回、笹田さん宅に訪問し、笹田さんの預貯金から生活に必要なお金を渡し、話を聴くことなど1時間程度の支援を行いました。はじめは、笹田さんと後見人の関係を築くことが難しい場面もありましたが、継続的に訪問するうちに笹田さんには「大好きなカープグッズを買いたい、動物園にパンダを見に行きたい」という思いから、仕事を頑張っていることが分かりました。そのためにも、笹田さんが計画的にお金を使うことができるよう丁寧に説明し、支援を続けることで、カープグッズの購入や動物園に行くための貯金をすることができました。
笹田 よし子(仮名)さんの基本情報 笹田さんの生活での困りごと |
母親の施設入所、死別、一人で暮らすための支援(8年前から現在)
笹田さんは、母親の施設入所により、精神的な不安が強くなり、仕事を休みがちになりました。
また、新たな住まい探しのため、笹田さんは、相談支援事業所やケースワーカーと一緒に新居を探しました。初めての一人暮らしなので、不安なく生活できるよう訪問介護サービスなどの新たな支援を受けることになりました。
さらに、笹田さんは、施設入所した母親のことを心配していたことから、離れていても親子関係が途切れることのないよう支援者間で検討し、訪問介護員が同行して、定期的に母親の面会に行きました。母親が亡くなった際には、東広島市社協は後見人として葬儀の準備を行い、笹田さんと母親を見送ることができました。
笹田さんを支援して約10年。笹田さんは、持病の影響で体調の変化などが見られるようになりました。その状況に合わせて、後見人や相談支援事業所、就労継続支援B型事業所や訪問看護など、多くの専門職が支援者として関わっています。関係者によるケース会議では、支援状況を共有するだけでなく、笹田さんの年齢が高くなるにつれて、好奇心や気力の低下が見られることなど様子の変化も共有しています。そして、出会った当時のカープグッズを買いたい、動物園にパンダを見に行きたいという笹田さんの目標を改めて専門職間で共有し、今後の支援のすすめ方を確認する場にもなっています。
実践者の声(東広島市社協地域福祉課 主事 松本 里絵 さん)
実際の支援や相談を受ける中で、複合的な問題を抱えるご家庭が増加していることを強く感じています。後見人だけでは、本人やその家族を支えることは難しく、関係者とチームを組んで臨めることがどれほど心強いか、感謝が尽きません。本人が望む生活とは何なのか、一人で考えていても、一人分の答えしか出てきません。本人をはじめ、関係者それぞれが日々の支援の中で感じたことを出し合い、専門性を活かして支援することで、少しでも本人が望む生活に近づけていくことができたらと考えています。
取り組みを通じて
現在も継続している笹田さんの支援。約10年間をふりかえると、本人の体調の変化や、家族である母親の入所や死別などライフステージのさまざまな出来事に合わせて、本人の意思を尊重した支援ができるように、本人を含め、後見人や関係する専門職がチームとして一緒に考え、共に歩んでいく重要性を改めて感じました。
また、今回のような長期に渡る支援では、社協という法人で後見人を受任しているため、社協職員や法人後見支援員も複数人で本人の人生に寄り添うことができます。
本会では、引き続き各市町社協が実施する法人後見事業をはじめ、本人の意思を尊重した権利擁護支援が円滑にすすむよう、会議や研修会、個別訪問などを通して支援します。
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