黄色いビブスが目印!「広島DWAT(ディーワット)」
2023.11.10 掲載
令和4年3月、広島県内の高齢、障害、児童等、12の種別団体と広島県、広島県社会福祉協議会(以下 広島県社協)で協定を締結し、災害時に派遣される福祉チーム「広島DWAT(ディーワット)」が誕生しました。
広島DWATはなぜ設置され、どのようなチームなのかご紹介します。
広島県災害派遣福祉チーム「通称 広島DWAT(ディーワット)」ってなあに?
広島DWAT(ディーワット)は、大規模災害が発生した際に、市町が開設した一般避難所等において、高齢者や障害者、乳幼児、妊婦等、配慮が必要な人たちの生活を支える福祉の専門職チームです。
一般避難所は、地域にある小中学校の体育館や公民館等に開設されますが、仕切りの無い空間で周りの人たちを気にしながら、ブルーシートの敷かれた固い床の上で不安を抱えて過ごすことは、心身に大きな負担がかかります。
特に、高齢者や障害のある人、子どもへの負担は大きく、避難生活が長引くにつれて心身の状態がひどく悪化したり、死に至ることも少なくありません。
平成28年の熊本地震では、被災後の疲労やストレス、生活環境が悪化したことによって亡くなられる「災害関連死」と呼ばれる人たちが、全体の約8割にも昇りました。
このように災害から助かった命がその後の避難生活で失われてしまうことが無いように、避難所においても平時と同じように、保健・医療と福祉が連携して配慮が必要な人たちの生活を支えるしくみとして設置されたのが広島DWAT(ディーワット)です。
広島DWAT(ディーワット)は、誰がどのような活動をするの?
広島DWAT(ディーワット)として活動する人は、平時は広島県内の福祉施設や事業所で働く職員さんで、介護職、生活相談員、支援員、看護師、ケアマネジャー、保育士等、福祉の専門的知識と経験を備えた人たちです。令和5年10月31日時点で165人が登録されています。
広島DWAT(ディーワット)は地震や大雨、台風等により大規模な災害が発生し、市町から要請があったときに派遣され、概ね5人でチームを組んで「黄色いビブス」を着て活動します。
避難所では、配慮が必要な人たちに、生活のしづらさや困っていることが無いか、身体や心の状態を聞き取りしていきます。
避難者には、水分不足による認知機能の低下や脱水症をはじめ、座ったままいることで立ちあがりが困難になったりエコノミー症候群になる等、見過ごしていると命に危険を及ぼす状況が少なくありません。
広島DWAT(ディーワット)は、そのような事態が起きないよう避難者の平時の生活の様子等も聞きながら、避難生活の中でも心身の健康を守れるよう対応していきます。
DWAT(ディーワット)だけでは対応できないことは、医師や保健師等、他のチームと一緒にそれぞれの専門性を活かしながら支援していきます。
また、不安や困りごとを一人で抱えこまないよう健康面に限らず生活面のさまざまな相談にも応じます。
このように、広島DWAT(ディーワット)は、災害から助かった命が失われることがないよう、配慮が必要な人たちの避難所での生活を支え避難者の命を守るチームです。
そんな活動をする広島DWAT(ディーワット)に登録されている職員さんをご紹介します。
◆角本さんのご紹介
桜が丘保養園 課長 角本 伸志(かくもと しんじ)さん
(介護支援専門員、介護福祉士、保育士)
桜が丘保養園入職から21年間、自立支援に特化した介護に取り組む。
1.なぜ広島DWAT(ディーワット)に登録されたのですか?
平成26年の広島土砂災害で災害ボランティアとして活動し、平成28年の熊本地震では広島県社協で募集していたボランティアバスに参加しました。
平成30年7月豪雨災害では、地元の東広島市も広範囲にわたって甚大な被害があり、ボランティアセンターを運営されていた東広島市社会福祉協議会(以下 東広島市社協)から当法人を通じて運営協力の依頼がありました。
東広島市社協とは、日頃から地域でのサロン活動等でつながりがありましたので、1か月間、東広島市被災者生活サポートボランティアセンターでボランティアコーディネーターの手伝いをさせてもらいました。
また、広島県介護支援専門員協会から声がかかり、ケアマネジャーとして三原市本郷地区の高齢者宅を個別訪問して被害状況や健康状態等を聞き取りしました。
こうした経験をさせてもらう中で、広島DWAT(ディーワット)の話があり「何か役にたてることがあるのでは」という想いから登録しました。
2.日頃の業務の経験や知識を、広島DWAT(ディーワット)の活動にどのように活かせると思われますか。
災害時は排泄に不安を抱える人が一番多いと思います。
家には手すりがつけてあったり、バリアフリートイレであれば設備が整っているので安心ですが、避難所のトイレは段差があったり手すりが無かったり、また、高齢者や障害のある人はトイレまで歩いて行くこと自体が難しい等、理由はさまざまです。
こうした状況があるときには「手すりの代わりにここを持ったらいいよ」と伝えてあげたり、立ちあがりの補助やトイレまでの同行、排泄時の介助等、排泄に関しては福祉の専門職として一番役にたてると思います。
避難された人たちにとって、避難所は生活の場になりますので、食事、入浴、排泄は家での生活と同じように支援することが必要です。
DWAT(ディーワット)が派遣されたときには、福祉の専門職として避難者の心身の状況を確認し、一人ひとりに応じた支援を行ったり対応方法の提案をすることができると思います。
また、DWAT(ディーワット)のチーム員は、日ごろから利用者さんの声に耳を傾けている経験豊富な人たちだと思いますので、SOSを自ら発せられない避難者の声も聞き逃さないよう、声かけしたり、見守りしながら必要な支援につなげていけるのではないかと思います。
3.いざというときの派遣に備えて、広島DWAT(ディーワット)登録者として日頃からどのような取り組みが必要だと思われますか。
地域とつながり、地域の人たちと一緒に活動することが大切だと思います。
当法人では地域の人たちを対象に家族介護教室を実施したり、居宅介護支援事業所、特別養護老人ホーム、デイサービスセンターやショートステイ等、各部署から職員を出してもらい地域に出向いてサロン活動を行っています。
こうした活動を通じて地域の人たちと顔なじみになっていますので、何かあったときには「桜が丘保養園」の職員を頼ってもらえると思いますし、避難所で不安になっても「知った顔」があると安心してもらえるのではないかと思います。
4.避難者が地域に戻られる際に、避難所でのDWAT(ディーワット)の支援をどのような形でつなげていけると思われますか。
避難所から地域に戻られる人の中に「心身の状態が気になるな」と思う人がいるときには、地域のサロン活動に参加された民生委員さんに「ちょっと気にかけてあげて」と、つないでいくことができると思います。
5.広島DWAT(ディーワット)として活動された経験を地域でどのように活かしていきたいと思われますか。
被災された地域は、災害に対する意識がより強くなり、訓練にも力を入れていかれると思いますので、実際の災害を想定した訓練を広島DWAT(ディーワット)が中心になって各地域で実施していけるようになるといいと思います。
桜が丘保養園では毎年、地域の人たちに参加してもらって火災訓練を実施していますが、そのつながりから、令和6年5月に住民自治協議会主催で実施される訓練に私たちも参加させてもらえることになりました。実際の災害を想定したシミュレーション訓練を予定されているので、私たちは広島DWAT(ディーワット)の黄色いビブスを着て参加させてもらい、DWAT(ディーワット)の存在や役割を知ってもらいたいと思っています。
広島DWAT(ディーワット)として地域の人たちと訓練することで、「黄色いビブスを着た人がいてくれたら大丈夫」と安心してもらえる存在になっていきたいと思いますし、避難所でも黄色いビブスの人を探してもらえるようになっていくといいな、と思います。
6.広島DWAT(ディーワット)に懸ける想いを聞かせてください。
地域での活動があってこそのDWAT(ディーワット)の活動だと思います。
私たちは地域の中にある施設ですので、地域の一員として地域のためにできることがあれば協力するという使命感を持っています。日頃から地域に頼られる施設づくりを通じて、地域の人たちと顔見知りになり、地域の人が「知っている顔」が福祉チームとして黄色いビブスを着ていることが一番大切になってくると思います。そうなることが最大の目標です。
県内の各地域にそういった関係が浸透すると、広島DWAT(ディーワット)の存在が定着し頼りにされ安心感を与えられる存在になっていくと思います。
信頼は後からついてくるものですので、まずは日頃から地域に出向き地域とのつながりをつくることをこれからも大切にしたいと思います。
地域から愛される角本さん(左)と上田さん(右)。
インタビューを終えて
広島DWAT(ディーワット)は、保健・医療とは異なる福祉的な視点から避難者の不安を軽減し「生活」を支えますが、そこに必要となるのは、福祉の専門的な知識と経験だけではありません。
当インタビューのように、社会福祉施設・事業所が地域の中の施設として日頃から地域とつながり信頼を得ること、そうした活動の先に、万が一、災害が起きたときには地域の一員として避難所での生活を支えるDWAT(ディーワット)の活動があるということ、この視点が大切です。
広島DWAT(ディーワット)の要請があったときに、地域の人に安心感を与えられるようなチームが組成できるよう、本会は平時のつながりを活かした被災者支援の取り組みを進めます。
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