権利擁護を必要としている人を支えるしくみづくり<廿日市市権利擁護支援地域連携ネットワークの取り組み>
2023.10.10 掲載
認知症や知的障害、精神障害などにより、日常生活に支障がある人への支援として、誰もが自分らしく安心して暮らせる地域共生社会をめざすための共通の基盤である権利擁護支援があります。この支援のひとつが成年後見制度であり、その制度を必要な人が利用することで、自分らしい生活が継続できるよう全国各地でしくみづくりがすすめられています。具体的には、コーディネート役(中核機関)と地域や福祉、行政や司法など多様な分野の関係者が話し合う場(協議会)により、連携した権利擁護支援を行うしくみ(地域連携ネットワークづくり)です。広島県内では、10市町(令和5年4月1日現在)で中核機関が設置され、そのうち5市町(令和5年4月1日現在)でネットワークづくりのため協議会が運営されています。
今回は、本会の成年後見利用促進体制整備専門相談アドバイザー派遣事業(県受託事業)(以下、アドバイザー事業)を活用された、廿日市市の取り組みの概要、取り組みの過程で実施したこと、実践者の声をお伝えします。
廿日市市権利擁護支援地域連携ネットワーク
廿日市市では、令和4年4月に中核機関を設置し、その運営を廿日市市社協が廿日市市から受託。同年5月には成年後見利用促進センター(以下、促進センター)を開所し、成年後見に関する相談対応や利用促進の取り組みをスタートさせました。同年10月には、第1回廿日市市権利擁護支援地域連携ネットワーク推進会議(以下、ネットワーク推進会議)を開催しました。
ネットワークの役割として、1.権利擁護支援の必要な人の発見、2.早期の段階からの相談・対応体制の整備、3.意思決定支援・身上保護を重視した成年後見制度による支援体制の構築の3つを有しています。
廿日市市権利擁護支援地域連携ネットワークのイメージ図
ネットワークの機能は、1.広報、2.相談、3.利用促進、4.後見支援の4つを柱にして具体的な取り組みを展開しています。1.広報の取り組みでは、促進センターの市民向けパンフレットの作成や成年後見等の出前講座、成年後見セミナーなどを行っています。令和4年度は、民生委員児童委員や当事者保護者会、社会福祉士等職能団体等の会議、出前講座などに21回出向いて、積極的に制度の理解や促進センターの周知を行いました。
1.広報 | 成年後見制度利用促進センター、成年後見制度に関する広報 地域における出前講座、成年後見セミナー等の実施 |
2.相談 | 市民や専門職、相談支援機関からの相談に対応やつなぎ 弁護士や司法書士等による専門相談会等の実施 |
3.利用促進 | 受任者調整のしくみ検討 市民後見人養成についての検討 |
4.後見支援 | 親族後見人相談会等の検討 市民後見人へのサポート等の検討 |
中核機関の設置・ネットワーク推進会議開催までの過程
中核機関の設置とネットワーク推進会議までの準備期間は、約3年。廿日市市と市社協は、先進地視察や準備委員会の設置を行い、設立準備にむけて協議をすすめました。その間、本会では、アドバイザー事業による専門家の派遣や本会職員による訪問支援などを行いました。アドバイザーである社会福祉士や弁護士、司法書士による助言や情報提供をふまえ、市域の権利擁護支援の状況を整理し、前述した機能別に取り組みを具体化。ネットワークの4つの機能を一斉に取り組むことはせず、広報と相談の2つから取り組むこと、また、相談への対応は、成年後見制度の利用を必ずしも前提とはせず、相談者の困りごとに合った情報提供等を大切にすることを確認しました。このことが、当事者や家族からだけでなく、支援関係者からの相談も多く寄せられることにつながりました。
実践者の声(廿日市市社協地域福祉課 課長 伊藤 竜也 さん)
市社協としては「社協権利擁護センター」の設置をめざしていましたが、人員体制の整備や財源確保等の課題もあり、実現に至っていませんでした。今回、市の地域福祉計画、成年後見制度利用促進計画の策定と連動し、社協が総合相談拠点整備の一角を担うことで、促進センターの開設につながりました。このことは、市社協が権利擁護支援を総合的に推進していく一歩になると考えています。また、県社協のアドバイザー事業等の活用で、行政との目線合わせや具体的なイメージを共有することに役立ちました。
ネットワーク推進会議では、各構成団体による支援の共有をきっかけに、新たな動きや、構成団体が連携した取り組みが生まれています。例えば、市民児協から、民生委員活動を通じて、成年後見制度の利用が必要と思われる人の話題提供の後、この制度が必要な人に届くようにと、民生委員児童委員を対象とした勉強会の実施につながりました。また、金融機関からは、相続や死後事務委任に関する情報提供があり、実際のケース対応における連携や、金融機関職員に対する認知症サポーター養成講座の実施につながりました。さらに、緊急財産管理のケースについて協議し、事業化して実施準備をすすめています。
今後は、社協としての総合相談機能の強化と権利擁護支援の充実を図ることを念頭に、広報・相談の取り組みと、利用促進や後見支援機能の充実に向けて取り組みます。また、令和6年度からは市民後見の取り組みも始まる予定です。
取り組みを通じて
市の成年後見利用促進計画等の策定を基に、成年後見制度の利用だけでなく、市民の権利擁護に係る総合相談とその対応を行うなど、市行政と市社協で丁寧に協議を重ね、関係団体と共有する過程が大切だと感じました。
また、ネットワーク推進会議という手段を目的化せず、権利擁護の相談窓口を広く市民や専門職に周知し、相談を増やす入口の取り組みの充実や、勉強会やケース対応における連携、必要な事業の検討など出口として新たな取り組みが生まれています。こうした取り組みが、真に権利擁護の支援が必要な市民に届けるためのしくみになっているかを忘れず取り組みを重ねる大切さも学びました。本会では、引き続き権利擁護支援地域連携ネットワークづくりの支援について、広島県や三士会(広島弁護士会、広島司法書士会、広島県社会福祉士会)等関係団体と連携した取り組みをすすめます。
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