これからのケアマネジャーに望まれること ~つながりを拡げる大切さ~
2022.02.10 掲載
本会社会福祉研修センターは、広島県知事の指定機関として、介護支援専門員実務研修受講試験と介護支援専門員実務研修(合格者対象)及び更新(実務未経験対象)・再研修を実施しています。
今回は、尾道福祉専門学校で教員をしている邑岡志保さんに、「これからのケアマネジャーに望まれること」について、お話を伺いました。
ケアマネジャーの役割
ケアマネジャーの主な仕事は、介護や支援を必要とする人の相談に乗ることや、心身の状況に応じて、訪問介護やデイサービスなどの介護サービスや社会資源を活用できるようにケアプランを作成すること、そして、自治体・事業者・施設などとの連絡調整を行うこととされています。
ここで大切なのは、ケアマネジャーは単にケアプランを作成するだけではなく、利用者ご本人に関わるチームを作る旗振り役を担っているということです。そして、利用者にとって、思いを聞いてくれる、知ってくれる、触れてくれる、引き出してくれる存在であるということです。
利用者は生きづらさを抱えていることが多く、喜びの前にしんどさがあります。その人が一歩を踏み出せそうなものを一緒に探すことが最初のアセスメントです。自分が作成したケアプランで利用者がその一歩を踏み出すことができたら、今後のケアマネジメントに自信を持てるようになりますし、仕事に対する達成感も得られます。小さくても一つひとつの成功体験がモチベーションアップにつながってきます。
約20年、ケアマネジャーをやってきて思うのは、ケアマネジャー一人では何もできないということです。個人の困りごと、地域の困りごとを改善すべく、地域へ発信をしていく役割があり、そのために、日頃から地域で多職種とつながっておくことの大切さを感じています。
ケアマネジャーに望まれること
ケアマネジャーは利用者の希望に耳を傾け、伴走する立場です。自分自身がさまざまな人やいろいろな事につながることが大切です。自分がつながって終わりではなく、そのつながりを利用者へと拡げていくことを意識してほしいです。ケアマネジャーの仕事は、決してサービスを組むことだけではありません。利用者の思いを引き出せるよう、常にコミュニケーション力をアップさせ、関わる全ての専門職のみなさんと一緒に利用者と向き合ってほしいと思います。
一方でケアマネジャーの知見、経験によって利用者への関わり方に差ができてしまうこともあります。厚生労働省は『適切なケアマネジメント手法の手引き』を策定し、質の平準化や初任段階のケアマネジャーの育成のために活用すべく取り組みを進めています。
例えば、盲腸の手術はどの医師がやっても大きく変わりません。これは、基本的な手法が確立されているためです。ケアマネジメント分野も基本的で適切なケアマネジメント手法を確立していくことで、どのケアマネジャーが担当しても生活を支える基本的ケアを整えることができ、担当するケアマネジャーによる質の差が生じないようになることが期待されています。
現場の現状と課題
毎年、介護の現場から多くの介護福祉士がケアマネジャーとして誕生しています。このことは、介護の専門性を活かしたケアマネジメントができるという強みにもなっています。しかし、一方で、実際の介護現場は介護職不足にあり、ケアマネジャーの仕事がしたくても現場を離れられない、介護のベテラン職員がケアマネジャーになると介護現場に穴が開いてしまうという現状もあります。利用者の生活の場となる介護現場で技術を培った介護福祉士が、ケアマネジャーというまた異なった視座でその強みを生かすことができれば、これほど心強いことはありませんし、介護福祉士のひとつのキャリアップにつながることは間違いありません。私たちはケアマネジメントの意義や楽しさを伝えていくこと、人材が集まる介護分野にしていけるように活動していくことが大切だと思っています。
また、別の課題として障害福祉サービスとの協働体制の構築が挙げられます。障害を抱えた利用者は、65歳までは障害者総合支援法での障害区分認定を受け、障害福祉サービス事業所の訪問介護やデイサービスを利用していても、65歳になると介護保険の要介護認定を受け、介護保険事業所の訪問介護やデイサービス利用へ移行します。今まで利用者が行ってきた活動や人とのつながりが途切れたり、日常サイクルさえ変わってしまうなど、利用者や家族に混乱が生じることもあります。制度のつなぎ目をいかにスムーズに移行していくか、利用者の活動やつながりをどう継続していくか、私たちケアマネジャーは日頃から関係者や地域とつながりを作り、バトンをつなぐことができるような仕組み作りが大切だと痛感しています。
令和3年度合格者353人 ~こんなケアマネをめざしてほしい~
広島県では令和3年度に353人が介護支援専門員実務研修受講試験に合格し、実務研修を経て新しくケアマネジャーに仲間入りします。新米ケアマネジャーさんには、ぜひ自分の事業所だけに収まらず、いろいろな人のケアプランを知り、取り入れてほしいと思います。
そして、常に利用者の声を聴き、希望を知り、そこに触れるよう心掛け、なぜ?どうして?そのケアマネジメントをしたのかと自分のケアマネジメントによる支援の根拠を持っていただきたいと思います。
また、どうしたらよいか迷った時、利用者の今後を考えた時、職場の先輩ケアマネジャーにアドバイスを求めるだけではなく、まずは利用者さんご本人の思いを改めてじっくり聴いていただきたいと思います。もちろん、家族支援も大切ですが、ご本人の希望を軸に思いに沿ったケアプランの作成を心がけてみてください。そうすると自然にその人の望む生活に寄り添っていけるケアマネジャーになっていけると思います。
介護業界の将来を担う学生の学び ~尾道福祉専門学校の取り組み~
邑岡さんが教壇に立つ尾道福祉専門学校は全国でも珍しい社会福祉法人立の専門学校です。現在、18~60代までの学生が介護福祉士をめざして学んでいます。日々の授業の中で、実際に現場で従事されている専門職など、たくさんの人が学校に来られます。また、施設の職員と一緒に利用者に楽しんでいただけるイベントを企画・運営することができるため、在学中から活きた福祉・介護を学ぶことができるという魅力ある専門学校です。
「介護に必要なものは知識と技術。そして何よりも、ケアチーム(ケアマネ、医師、看護師、相談員、リハビリ職、精神保健福祉士など)として、利用者と言葉を交わし、身体に触れ、心を通わせることが大切です。チームでの仕事が地域包括ケアシステムの中でも活きてくるので、多職種との関わりが大切だと伝えるようにしています。」と邑岡さん。
一方で「この学校ではICT(注1)やLIFE(注2)など、時代の求めに応じ、学生が最新の学びができるように取り組んでいきたい。また、学生だけではなく、実践している専門職が学びたいことを体系的に学べるようなメニューが組めるようにしたい。子どもからお年寄りまで地域の人が気軽に利用できる場でありたい。」とこれまで福祉職として活躍されてきた邑岡さんだからこその思いが伝わりました。
「福祉専門職としていろんな人とつながるためのチカラを育む場、また、地域の人同士もつながることのできる場になればいいな。」と穏やかに締めくくられました。貴重なお話をありがとうございました。
(注1)ICT インフォメーションコミュニケーションテクノロジー
(注2)LIFE 科学的介護情報システム
〈 尾道福祉専門学校 〉
〈 元気な学生に囲まれた邑岡さん(中央)〉
~プロフィール~ (社福)尾道さつき会 尾道福祉専門学校 邑岡志保さん
広島生まれ広島育ち、大学進学で広島を離れる。在学中に阪神淡路大震災が発生し、ボランティアとして現地入り。建物、道路など目にするものすべてが傾き、平衡感覚を失うなど、恐怖と衝撃を受けながらも、被災者支援、高齢者支援に奔走。そこでのボランティア経験が後押しとなり、広島にUターン後、福祉の現場に飛び込んだ。
平成8年に尾道さつき会に入職。特別養護老人ホーム、デイサービス、ケアハウスの生活相談員や福祉用具専門相談員を経験。平成13年に介護支援専門員資格を取得し、同法人の居宅介護支援事業所や尾道市向島地域包括支援センターで活躍。平成26年には広島県知事からケアマネマイスターの認定を受け、介護支援専門員研修講師として、法定研修を組み立てる委員となっている。
ケアマネ一筋20年が経った令和3年度、同法人の異動で尾道福祉専門学校の教員となり、教壇に立つ。現場経験のない学生に介護、福祉について伝えていくことは難しいが、法定研修に携わった研修の経験が活かされている。
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