利用者の望む生活を実現するために~介護支援専門員の取り組み~
2021.02.10 掲載
本会社会福祉研修センターは、広島県知事の指定機関として、介護支援専門員の資格を取得するために必要な、介護支援専門員実務研修受講試験(以下「ケアマネ試験」)及び介護支援専門員実務研修(以下「実務研修」)を実施しています。
今回は、介護支援専門員(以下「ケアマネジャー」)でもある広島市口田地域包括支援センターセンター長の元廣 緑さんにお話を伺いました。
介護支援専門員になった”きっかけ”
ある高齢者施設で歯科衛生士として働いていたとき、介護保険制度の開始に合わせ、当時の所属法人からケアマネ試験を受験するよう話があったのがきっかけです。第1回目の試験を受験し、合格。実務研修を経て、ケアマネジャーとして登録。介護保険が始まった2000年4月から、同法人が開設した居宅介護支援事業所のケアマネジャーとして勤務をスタートしました。
地域包括支援センターでの活動・取り組み ~主任ケアマネジャー~
地域包括支援センター(以下「包括」)には、主任ケアマネジャーと、介護予防支援事業所のケアマネジャーがいます。
元廣センター長は、この両方の立場で仕事をされています。
必置職員である主任ケアマネジャーの役割は、センター職員のマネジメントを始め、広島市から受託している包括的継続的ケアマネジメント業務である「地域づくり」「環境整備」「地域内のケアマネジャーのサポート」等があります。
具体的な取り組みとしては、地域のケアマネジャーが担当する個別ケースで、利用者本人やそれを支える関係機関(医療施設など)とスムーズに連携できるよう「仲介役」「調整役」「橋渡し役」として、サポートしています。また、地域のケアマネジャーを集めて研修会・連絡会・連携会議を主催しています。さらに、ケアマネジャーから相談がある内容をテーマにした勉強会や、介護予防ケアマネジメント研修(広島市実施)の振り返り研修。他には、大きな大会に出席した場合、情報共有のための勉強会、ケアマネジャーと民生委員との関わりをつなげるための連絡会議。最近は、“共生社会”をめざしていることもあり、担当地域には、作業所や放課後児童デイ等、障害者施設が多く、利用者は65歳になったら介護保険のサービス利用が優先されるため、将来を見通して、障害関係の事業所とケアマネジャーの連絡会議や顔合わせ会等も行っています。
なお、役割の一つである「地域づくり」のため、地域の地区社協や老人クラブ、町内会など地域の集まりにも積極的に参加し、地域の実態やキーパーソンを把握するようにしています。会議時間に参加するだけでなく、集合時間から片付けまで関わるようにしています。会議以外での地域の人との会話は、地域を知る情報源。これを積み重ねることで、地域との関わりや包括への理解も深まり、地域の人などさまざまな資源が見えてきます。
地域に合った、地域の人が進めやすい形の社会資源ができないと続かないので、こういった関わりは、包括の他の職員も含め、大事にしています。
地域包括支援センターでの活動・取り組み ~介護予防支援事業所のケアマネジャー~
介護予防支援事業所のケアマネジャーの役割は、居宅介護支援事業所のケアマネジャーと同様に、利用者(高齢者A)の担当者として、自宅に伺い、重要事項等を説明し、契約。行政へ関係書類を提出後、利用者の希望する生活に向けてアセスメントを行います。利用者と一緒に3か月先、半年先にどんな生活をしたいか、例えば、痛い膝が治まったらどう暮らしたいか等、じっくり本人の思いや言葉を聴き、介護予防プランを作成し、担当者会議を行い、本人の生活を支援します。
アセスメントをする際は、本人の話はもちろん、家族や、今まで関わってきた老人クラブや地域サロン、通院している病院の医師、町内会など、本人が地域とどのくらいのつながりがあるのかを把握することに努めています。
「要支援のAさん」ではなく、「地域の中で暮らしているAさん」としてみます。介護保険で24時間365日要支援の人に対応できないので、例えば、週に1回デイサービスに行く人には、あとの6日間誰と関わってどう生活しているかを確認し、6日間の生活環境を理解することによって、「ここにサロンがあったらいいなぁ」「ここで井戸端会議がされているから、他の人も行けるようになったらいいなぁ」と考えます。
また、ケースを担当している理由は、担当している高齢者から見える地域があるから。本人のアセスメントから高齢者の困りごとが、一人のものだけでなく、地域全体の課題として見えてくることがあります。例えば、この地域は山を崩してできた団地のため、坂を降りることができない。バス停や地域タクシーの乗り場までが遠い等…。こういった地域課題を地域の人と共に行政に伝えていくこともしています。
大変な面もありますが、主任ケアマネジャー(地域支援)と介護予防支援事業所のケアマネジャー(個別支援)の業務を両立しているからこそ、地域全体を見据えた取り組みが可能となっています。
地域のケアマネジャーへのサポート ~利用者・家族を中心に~
地域のケアマネジャーから「困難事例なんです」と相談がありますが、何が、いつから、だれが、どう困難を感じているのか、一つひとつ紐解きながら、話を聞き、一緒にその原因を探ります。
支援者にとって困難であっても、利用者や家族は普通に生活しているということ。
この時、「利用者の望む生活は何なのか」「利用者にとって、安心できる自立した生活とはどんな暮らし方なのか」を中心に考え、場合によっては、担当者会議をもう一度開くように促したり、事業所と話を再度すり合わせたりアドバイスします。
支援者が良かれと思う到達点があったとしても、利用者がまっすぐその到達点に向かって歩みを進めてくれるとは限らない。寄り道をたくさんしながら、時には悩みながら歩みを進めて行く人もいます。あくまでも、利用者の人生なので、ケアマネジャーは、めざす方向性や、そこに進むための手立て、自助共助のさまざまな選択肢を示してあげることが大切です。どの方法で辿り着くのかは、利用者が決めることです。
いろんな案件がありますが、結局、‟困難”の捉え方次第であって、「どう対処しようかな」「どのように説明したら理解してもらえるかな」とは思うものの、利用者や家族のために、どの案件も困難ケースとは思わず関わっています。
介護支援専門員として大切にしている視点
介護支援専門員に欠かせないのがアセスメント力
利用者本人のみをアセスメントするのではなく、地域を含めて、本人の生活全体をアセスメントするよう心掛けています。
また、アセスメントする時に、特に気をつけているのは、自分が不得意なところの情報が抜けないようにすることです。得意としているところに目がいきやすく、歯科衛生士であれば、口元を見て、入れ歯なのか、自分の歯なのか、確認します。理学療法士であれば、歩き方を見て、膝が悪いのか、腰が悪いのかと確認します。得意な所ばかりに気を取られて、必要な情報が抜けないよう、細心の注意を払ってアセスメントしています。
本人・地域を中心にした連携
地域にはさまざまな施設・事業所があり、表面的な多職種連携になりやすい傾向があります。多職種連携は、各専門職(関係機関)としての立場やそれぞれの利害関係を横に置き、本人・地域を中心にした真の連携を深め、つなぐことが包括の大事な役割の一つだと考えています。
地域のことは地域の力で
包括のキャッチフレーズである「地域の人は地域の力で」。地域の高齢者や地域の人たちと、一番大事にしていることは、地域のことは地域で解決してほしいということです。地域の人たちが考え、自ら取り組むその過程が地域を強くすると思います。
地域包括支援センターのケアマネジャーの取り組みを通して
この包括の仕事を通して、地域の人や利用者からさまざまなことを教えていただき、人生勉強をさせてもらっています。
自分としての「介護保険とは」「支えるとは」「自立支援とは」といった信念を持ち、柔軟に対応できる力を培い、利用者を中心に考え、命の危険がない限りは利用者の意思を尊重した生活のお手伝いをこれからも続けていきたいと思います。
プロフィール
歯科衛生士専門学校を卒業後、歯科医院の勤務を経て、養護老人ホームの歯科衛生士として勤務中に、平成11年、介護支援専門員を資格を取得。
平成11~16年 居宅介護支援事業所の介護支援専門員、平成17年には在宅介護支援センター相談員を務め、平成18年から現職を務める。
平成26年 広島県知事からケアマネマイスター広島の資格の認定を受ける。
現職の他、広島県地域包括・在宅介護支援センター協議会 副会長や、一般社団法人広島県介護支援専門員協会の理事を務め、介護支援専門員研修等講師としても活躍中。
お問合せ先
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